四畳間

幼女の備忘録と感想文

操業エンジニアは二重思考をする

 操業エンジニアとして,数年間,鉄鋼製品製造ラインの操業管理業務をやっていて考えたことを一つ書く.
これは,入社から数年間の工場張り付きだったときに考えた話.
個人的には後ろ向きの話ではないと思っている.
 

鉄鋼製品製造ラインの操業エンジニアとは

 私の職務内容は概ね下記だった.
 ①今ある設備・人をいかにうまく使うかを考える.
 ②今の設備をどう変えていくべきか考えて,必要であれば実行する.
 
 例えば①の例としては,装置の設定値を変更したら単位時間あたりの生産量を多くできないか,とかそういうこと.②の例としては,今の設備とおなじ機能でより強力なものを入れたり,あるいは全く別の機能を持つ設備を付け加えたらラインにとってメリットがあるか考える.メリットがあるなら予算をとって,社内の設備部・制御部・研究部,社外のメーカーに働きかけて自分の夢を実現してもらうこと.
 
 鋭い人は気づいたかもしれないけど,工場張り付きだからといって自分で機械操作等の製造作業を行うのではない.製造作業はそのためのトレーニングを受けた高卒のオペレータと呼ばれる人たちがやっていて(注1),大卒の操業エンジニアは日々の操業成績やオペレータから上がってくる報告を元に,①や②の業務をやっている(注2).だから操業エンジニアの机は工場内にはなく,工場に隣接した事務所内にあり,必要に応じて現場に行くという仕事の仕方をする.ある意味では,操業エンジニアとはその製造ライン専用のコンサルといってもいいかもしれない.
 
注1)鉄鋼メーカーの現場は給料がいいので,地元工業高校のトップ層がゴロゴロいて大変頼もしい.
注2)ライン全体にはセンサやカメラが計数千設置されていて,データサイエンス的考え方が必要になってきている.
 
 

生産体制を守るという目的における,高卒のオペレータと大卒の操業エンジニアの違い

 両者とも,いい製品を生産し続けることを目指している点は変わらないけど,上で書いたように明確に役割が異なる.上では漠然と書いたのでちゃんと書き直す.高卒のオペレータは既存のルールに従って作業を行なって,生産体制を未来に繋いでいくことが使命である.一方大卒の操業エンジニアは,今のやり方は現場オペレータが守ってくれることを信じて,新しい設備や操業方法を導入して未来の生産体制を守る方法を考えるのが使命である.
 変えないことで生産を守るのか,変えることで生産を守るのか,と言い換えてもいいかもしれない.
 私個人の経験ベースだけど,究極的にはこうなんじゃないかと私は思っている.
 
 

操業エンジニアはいつ現場に行くか

 少し脱線するけど,操業エンジニアは色々なタイミングで現場に行く.よくあるのは出社直後と自分で特別に設定したタイミング.これは,操業成績やオペレータからの報告を確認したり,現場オペレータとの打ち合わせを行うため.他には不具合の電話があったときに突発で行く場合.一番好きだったのは,実験のための深夜立会い.実験材がラインに流れる1時間くらい前から現場でスタンバイして,実験後1時間くらいなんとなく居座るから,少なくとも2時間くらいはオペレータと世間話をする機会がある.深夜なので他の操業エンジニアの目を気にせず,好き放題話ができる.
 
 

操業エンジニアは二重思考をする

 私は,現場に対しても上で書いたような使命の違いを明言していた.すると,実験を依頼しても将来のためならと引き受けてくれたり,現場なりに日々感じたことを改善提案として出してくれるようになった.たまに無茶も言うけど将来に向かって現場を良い方向に変えようとしているからいいとのことだった.
 そんなこんなしながら,ある日の深夜立会い時,よく話をしていたオペレータのリーダーに次のような話をした.
「私は現場力が大切だと現場を鼓舞する一方で,やっているのは現場の思考力を奪い,現場力を失わせることにつながる自動化の推進だ.」
 
それに対する彼の答えはこうだった.
「自分たちは誇りを持って精一杯考えて仕事をしている.でも考えなくてよくなるならそっちの方がいい.」
 
 最終的に彼と私は次のような結論に至った.
自動化をするためにはいろいろと今の作業をマニュアル化する必要があるので,それをやった我々は多くの知見を得ると思う.でも,完全に自動化された設備を使うことになる次の世代は頭を使わなくなるから,我々がマニュアル化できなかったところから少しずつ現場がダメになっていくだろう.そのペースは遅いから,現場がダメになるまでには30年くらいかかるはず.その時には我々は退職だから逃げ切れる.回避する方法は,現場力に期待するという思想を完全に捨て去って,そういうふうに工場と組織を設計するしかなくて,のこりの期間で思想転換できるかどうか.
 
ちなみに、筆者は現場力に頼りたい側。